【寄稿】私の思う農業

今回は、楽農生活センターで2018年まで技術指導員をされていた中西重喜さんに寄稿して頂きました。

農政100年の大計を持って

農業の方向を考えるとき、かつては個々の農家がそれぞれに考えていましたが、農業基本法(のうぎょうきほんほう、1961年)が制定され、日本の農業に関する政策の目標が示されました。

これにより、日本の農業は都市生活者と農家の所得差をなくする事を目指して選択的拡大多様な農業分野の中で、特定の作目や品目だけを選択して拡大する、流通対策、構造改革を合言葉に経営規模の拡大を資本主義に合わせて行ってきました。

1999年、食料・農業・農村基本法の施行によって食料の安定供給の確保、多面的機能の十分な発揮、農業の持続的な発展、農村の振興の4つの基本理念が掲げられました。
詳細な解説は省略しますが、農業の政策は社会情勢の変化に対応して定められています。

時流に合わせれば、小さな行動で大きな成果が得られます。時流に逆らえば、大きなエネルギーを費やしても成果が得られません。
農政は大きな変化をすることなく、長期間の方向を見定めて政策を展開すべきだと云われています。

変わるものと変わらぬもの

私は、農業の基本として、時流に合わせて変わるものと、何時の時代においても変わらないものがあると思っています。
時流に合わせて変わったものの中に、変わって良かったものと変わった事により困った事が出てきているものとがあると思います。

特に戦後の日本は資本主義と民主主義を選択しました。資本主義を選択したことにより、大きく変わったものは日本が貨幣価値で全てを判断するようになったことです。
収入の多い人や職業が価値あるものと認められ、収入が少ない人や職業が疎んじられるようになっています。

これにより、経験豊かな老人たちが社会から疎外され、老人ホームに集められるようになりました。
収入の少ない職業である個人商店や農業に若い人たちが魅力を感じなくなって、担い手不足、後継者不足が顕在するようになりました。過去の経験、知識やノウハウが価値を失っているのです。

今、時流に乗るには

時流に合わせれば、少ないエネルギーで大きな成果が出せる話をしました。ならば、今の時流はどこへ向かっているのでしょうか?

結論を先に紹介すると「SDGs」です。

SDGsには17の目標があるので、取り組んでいる事が、どの目標に当てはまるのかが解りにくくて困ります。
農業をしていて、SDGsと云われても何のことか解らない人のほうが多いと思います。さらに、1%しかない有機農業を25%にするといわれても、なぜそんなことを目標にしなければならないのか、目標到達への道筋はどうするのかを解る人が少ないと思います。

そこで、具体的な事例があれば真似ができると思い、私の農業をSDGsに目指した農業に転換をしました。
取り組んでいる内容の一部分は神戸新聞にたびたび掲載されていますので、お探しください。

しかし、私の農業は、急にSDGsになったのではないのです。
資源を有効に使い、地球環境に負荷をかけず循環させるのは、SDGsと言われる前にサーキュラーエコノミーとして取り組んでいましたし、その前はゼロエミッションとして取り組んでいました。

私の農業も、日本の農政も百年の大計を持って十年先を考え一年先の対策を講じる必要があると思っています。
過去を調べると日本では、五十年に一度は飢饉になっていました。私もタイ米を輸入して、百姓一揆を回避した農政を経験しています。
もうすぐ次の五十年に一度の飢饉がやってきます。このチャンスに農業の大切さを、すべての日本人に知ってもらう対策を考えましょう。


【参考資料】
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。

SDGs17の目標

1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに 3.すべての人に健康と福祉を 4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう 6.安全な水とトイレを世界中に 7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに 8.働きがいも経済成長も 9.産業と技術革新の基盤をつくろう 10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任 つかう責任 13.気候変動に具体的な対策を 14.海の豊かさを守ろう 15.陸の豊かさも守ろう 16.平和と公正をすべての人に 17.パートナーシップで目標を達成しよう